国際的に脅威となる感染症対策の強化に関する基本計画
〜絶え間ない感染症の脅威に挑戦する日本のアクション〜

平成28年2月9日
国際的に脅威となる感染症対策関係閣僚会議

T.はじめに

  先般のエボラ出血熱の西アフリカでの感染拡大については、当事国の国民生活及び経済活動への甚大な影響のみならず、国際社会にも大きな衝撃と不安を与えたが、これと同様の国際的に脅威となる感染症は、今後も発生する可能性がある。
アラビア半島諸国を中心に発生が確認された中東呼吸器症候群(MERS)について は、昨年 5 月、韓国で感染拡大が見られ、先進国において感染が拡大したことか ら、我が国としても自国の問題として、国内体制の更なる強化を図る必要性を再 認識させるものとなった。
  今回の西アフリカでの事案等を通じて得られた様々な教訓や、国際社会の動向も踏まえ、国際的に脅威となる感染症対策について、関係行政機関の緊密な連携の下、その効果的かつ総合的な推進を図るため、昨年 9 月 11 日、内閣総理大臣が主宰する「国際的に脅威となる感染症対策関係閣僚会議」(平成 27 年 9 月 11 日 閣議口頭了解)(以下「閣僚会議」という。)を新たに設置し、「国際的に脅威となる感染症対策の強化に関する基本方針」(以下「基本方針」という。)を閣僚会議にて決定した。また、同日、「平和と健康のための基本方針」を健康・医療戦略推進本部において決定した。
  その後、閣僚会議の下に設けられた「国際的に脅威となる感染症対策推進チーム」(平成 27 年 9 月 11 日 国際的に脅威となる感染症対策関係閣僚会議決定)(以下「推進チーム」という。)を昨年 10 月 22 日に開催し、基本方針において、「今 後、本基本方針に基づき、工程表を含む基本計画を本閣僚会議において策定す る」とされている中で、基本計画の策定に向けた検討を開始した。
  また、関係省庁間で横断的な重要事項に関し、実務的な検討を進めるため、推進チームの下に、「国際的に脅威となる感染症対策推進チームサブチーム」(平成 27 年 10 月 22 日 国際的に脅威となる感染症対策推進チーム決定)を設置した。本サブチームは、国際協力推進、国内検査・研究体制推進及び人材育成・活用の各分野ごとに開催し、多くの有識者、民間企業、NGO・NPO 等の専門的かつ幅広い見地からの助言も得つつ、検討を進めてきた。
  さらに、薬剤耐性(AMR)微生物の世界的な拡大について、昨年 5 月の世界保健 機関(WHO)総会において、薬剤耐性(AMR)の世界行動計画(グローバルアクショ ンプラン)が採択され、同年 6 月 7・8 日に開催された G7 エルマウ・サミットにおいて取り上げられるとともに、同年 10 月の G7 ベルリン保健大臣会合においても薬剤耐性(AMR)対策の一層の強化が求められている。このため、国際的に拡大する薬剤耐性(AMR)感染症への取組を関係省庁が一体となって進めるため、推進チ ームの下に、「薬剤耐性に関する検討調整会議」(平成 27 年 12 月 24 日 国際的に 脅威となる感染症対策推進チーム長決定)を設置し、我が国における薬剤耐性 (AMR)対策を推進するためのアクションプランの策定及び取組の促進を図るための 検討を開始した。
  また、中南米地域で感染拡大が続いているジカウイルス感染症に関して、本年2 月 1 日、WHO が小頭症等の多発について「国際的に懸念される公衆の保健上の緊急事態(PHEIC 4)」を宣言したことを受け、政府として関係省庁間の緊密な連携を 確保しつつ、その対策を総合的に推進するため、推進チームの下に、「ジカ熱に関 する関係省庁対策会議」(平成 28 年 2 月 2 日 国際的に脅威となる感染症対策推進 チーム長決定。以下「関係省庁対策会議」という。)を設置した。

薬剤耐性:Antimicrobial resistance(AMR)
首脳宣言においては、「薬剤耐性と闘う共同の努力」に関する附属書も盛り込まれている。
薬剤耐性に関する検討調整会議(https://www.kantei.go.jp/jp/singi/kokusai_kansen/
Public Health Emergency of International Concern
  他方、国際的に脅威となる感染症に国際社会が対応する方策等については、様々な国際的な議論が進められている。昨年 6 月に開催された G7 エルマウ・サミット において、「将来起き得る感染症との闘いのため協調」することが、首脳宣言で盛り込まれた。その後、「持続可能な開発のための 2030 アジェンダを採択する国連サミット」(2015 年 9 月 25〜27 日)、「第 70 回国連総会サイドイベント『UHC への 道筋』」(同月 28 日)、G7 ベルリン保健大臣会合(同年 10 月 8・9 日)、第 70 回世 界銀行・IMF年次総会(同月 9 日)、第3回 WHO 財政対話(同年 11 月 5・6 日)等 が行われた。同年 12 月 16 日には、我が国は、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)5に関する国際会議「新たな開発目標におけるユニバーサル・ヘルス・ カバレッジ:強靭で持続可能な保健システムの構築を目指して」6を開催した。
  また、同月 12 日、「ランセット誌」に、安倍総理の「世界が平和でより健康で あるために」と題する寄稿 7により、我が国が議長国を務める本年 5 月の伊勢志摩 サミット等を通して、国際保健に継続的に貢献していく決意を示した。
  さらに、エボラ出血熱の西アフリカでの感染拡大において、現地対策を行う 国、国際機関、NGO 間の連携が十分に取れなかったことを背景に、今後の感染症 危機への対応のために必要とされる各組織の有機的な連携の在り方、いわゆるグ ローバル・ヘルス・ガバナンス(GHG)についての国際的な議論も様々な場8で行われており、健康危機への国際的対応に関する国連ハイレベルパネル(High-level Panel on the Global Response to Health Crises of the UN)の報告書が近く公 表される予定である。

ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(Universal Health Coverage(UHC)):全ての人が基礎的な保健医療サービスを必要なときに経済的な不安なく受けられる状態
「新たな開発目標におけるユニバーサル・ヘルス・カバレッジ:強靭で持続可能な保健システムの構築を目 指して」は、(公益財団法人)日本国際交流センター、外務省、財務省、厚生労働省、独立行政法人国際協 力機構(JICA)が共催し、平成 27 年 12 月 16 日、東京都内で開催された。各国の政府関係者、国際機関の代表、民間の専門家等、約 300 名の参加を得て議論がなされた。
ランセット誌への安倍総理大臣寄稿「世界が平和でより健康であるために」(厚生労働省 HP) (http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000106535.html
2015 年 11 月 22 日、ロンドン大学衛生・熱帯医学大学院及びハーバード大学グローバルヘルス研究所の 「エボラ出血熱への国際的対応に関する独立パネル」、2016 年 1 月 13 日、米国医学アカデミー(National Academy of Medecine)がそれぞれ報告書を公表した。
  国連が 2000 年に採択した「ミレニアム開発目標」(MDGs)9の一つである「HIV/エイズ、マラリア、その他の疾病の蔓延の防止」については、大幅な改善10が 見られ、昨年 9 月に国連開発サミットで採択された「持続可能な開発のための2030 アジェンダ」(SDGs)11においては、「2030 年までに、エイズ、結核、マラリ ア及び顧みられない熱帯病(Neglected Tropical Diseases(NTDs))12といった 伝染病を制圧するとともに、肝炎、水系感染症及びその他の感染症に対処する」 ことが目標とされた。
なお、「ミレニアム開発目標」(MDGs)の一つである「乳幼児死亡率を3分の1に削減する」ことは達成に至らず、SDGs においては、新たな目標として、「2030 年までには乳幼児の予防可能な死亡を根絶すること」が掲げられている。13
  また、昨年 12 月、大村智北里大学特別栄誉教授が顧みられない熱帯病であるオンコセルカ症(河川盲目症)及びリンパ系フィラリア症(象皮症)の治療薬の原 料となる物質の発見等に関しノーベル賞を受賞されたことは、我が国として誇るべきことであると同時に、医薬品等の我が国の強みを活かすことのできる分野において、引き続き、持続的な貢献を行うべきであることを再認識させた。
  以上のような国際的な動向等も踏まえつつ、今般、国際的な脅威となる感染症対 策について、本年G7議長国として、国際的な議論を主導するとともに、国際協力・国内対策の更なる強化を図るため、「国際的に脅威となる感染症対策の強化に関す る基本計画」(以下「基本計画」という。)を取りまとめ、関係行政機関等の緊密な 連携の下、その総合的かつ効果的な推進を強力に図るものとする。

ミレニアム開発目標(Millennium Development Goals(MDGs):2000 年 9 月ニューヨークで開催された国連ミ レニアム・サミットで採択されたミレニアム宣言と1990年代に開催された主要な国際会議やサミットで採択された国際開発目標を統合し、一つの共通の枠組みとして、2001 年に策定されたもの。2015 年までに達成すべき 8 つの目標として、@極度の貧困と飢餓の撲滅、A初等教育の完全普及の達成、Bジェンダー平 等推進と女性の地位向上、C乳幼児死亡率の撲滅、D妊産婦の健康の改善、EHIV/エイズ・マラリア・そ の他の疾病のまん延の防止、F環境の持続可能性確保、G開発のためのグローバルなパートナーシップの推進を具体的な数値目標とともに掲げている。
10HIV/エイズの感染症は 2000 年から 2013 年までに世界で約 40%減少し、マラリアは 2000 年から 2015 年ま でに世界で約 620 万人以上の命が救われたと推定されている。
11MDGs の後継として国連で定められた、2016 年から2030 年までの国際目標。MDGs の残された課題(例:保 健、教育)や新たに顕在化した課題(例:環境、格差拡大)に対応すべく、新たに17 ゴール・169 ターゲッ トからなる持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals: SDGs)を策定。昨年9 月の国連総会で 合意された。
12顧みられない熱帯病(Neglected Tropical Diseases(NTD)):WHO はデング熱、リシューマニア症、シャ ーガス病、住血吸虫症等 17 の疾患群を挙げている。(http://www.who.int/neglected_diseases/diseases/en/) 国際的には、1997 年のG8 デンバーサミットでの橋本イニシアティブを契機として世界的に認知され、昨 年の G7 エルマウ・サミットにおいても NTDs 対策の重要性が確認された。
13「ミレニアム開発目標」(MDGs)の一つである「乳幼児死亡率の削減」について、世界における5 歳未満の 幼児死亡率(1,000 人あたり)は、1990 年時点の90 名から2015 年には43 人へと、半分以下に減少した が、目標である「乳幼児死亡率を3 分の1 に削減する」ことの達成には至っていない。

U.基本的な考え方について

  (基本計画の策定の目的) 基本方針においては、西アフリカにおけるエボラ出血熱の感染拡大の教訓等を受け、先進諸国等の対応や国際機関の動向も踏まえ、今後の対策の基本的な方向性と して、
  • (1) 国際的に脅威となる感染症に係る国際的な対応と国内対策の一体的推進
  • (2) 国際的に脅威となる感染症の発生国・地域に対する我が国の貢献及び役割 の強化
  • (3) 国際的に脅威となる感染症に対する国内の対応能力の向上による危機管理 体制の強化を掲げた。これらの基本的方向性に基づき、我が国として重点的に強化すべき事項 として、
  • @ 国際協力及び海外情報収集等の強化
  • A 国内における感染症に係る危険性の高い病原体等の検査・研究体制の整備
  • B 国際社会において活躍する我が国の感染症対策に係る人的基盤の充実方策
  • C 国内における感染防止対策及び在外邦人の安全対策の強化 を示した。これらの重点的に強化すべき事項について、今後、関係行政機関等の緊 密な連携の下、具体的かつ着実な取組を進めていく必要がある。
  (基本計画の概要) 基本計画については、国際的に脅威となる感染症対策の強化について、基本方針 に基づき、今後 5 年程度を計画期間(平成 32 年度まで)とし、我が国が目指すべ き姿を提示した上で、5 つの重点プロジェクト(施策群)及び 67 の各分野別施策 を掲げ、これらに基づく取組を進めることにより、国際社会で我が国としての責任・ 役割を着実に果たしていくとともに、国民の安心・安全の確保に万全を期していく。
  (我が国が目指すべき姿) 国際的に脅威となる感染症対策について、西アフリカのエボラ出血熱の感染拡大 の際の反省に立ちつつ、国際社会において我が国が主導的な役割を発揮していくと ともに、我が国が様々な場で主張してきた「人間の安全保障」14の考え方に立って、国際機関、関係諸国等と連携しつつ我が国が目指すべき姿として、以下の 4 点を掲 げ、その実現に向けて、基本計画に掲げる施策の推進を図る。
  1. 感染症危機時に様々な国際機関が連携し、迅速・効果的に対処できる仕組み が構築された国際社会西アフリカにおけるエボラ出血熱の感染拡大の教訓等も踏まえ、感染症危機時において、その発生国における感染の検知・早期封じ込め又は感染の拡大の防止を図るため、当該国、ドナー国、世界保健機関(WHO)、国連機関等様々な国際機 関が NGO とも協調しつつ、有機的に連携し、迅速かつ効果的に対処できる仕組み が構築された国際社会の形成を目指す。
  2. 開発途上国の保健システムが感染症危機に対応できるように強化・整備され た国際社会感染症に適切に対応するための平時からの事前の取組(Preparedness)の向上を図るため、基礎的な保健医療サービスの体制等が脆弱な開発途上国に対し、拡大傾向にある薬剤耐性(AMR)感染症への対応を含め、その保健システムの強化に資する積極的かつ具体的な貢献を進める。
  3. 我が国の主導的な取組により感染症危機に適切に対応できるアジア太平洋地 域・アフリカ地域上記(a)の感染症危機時の対処の仕組みの構築や(b)の保健システムの強化・整備について、特に、アジア太平洋地域において我が国が主導的な取組を推進するとともに、TICAD Y15等を通じ、アフリカ地域において積極的な貢献を果たす。
  4. 感染症対策に係る体制が確立された我が国社会 感染症対策について、我が国が国際社会において、その役割を十分に果たすことができるようにする観点及び韓国における MERS の経済影響 16も踏まえ、感染症対策は日本の成長戦略の実現の上でも重要な前提となるという認識の下に、保健医 療のサービス体制、感染症に係る検査・研究体制、感染症対応のための人的基盤 等国内の体制を確立する。

14人間の安全保障:グローバル化等により国境を越え、貧困、感染症等といった問題が生じ、人々の生命・生活に深刻な影響を及ぼしていることを背景として、人間一人ひとりに着目し、生存・生活・尊厳に対する広範かつ深刻な脅威から人々を守り、それぞれの持つ豊かな可能性を実現するために、保護と能力強化を通じて持続可能な個人の自立と社会づくりを促す考え方。国際社会において、人間の安全保障という概念を初めて公に取り上げたのは、国連開発計画(UNDP)の 1994 年版の人間開発報告であり、2000 年 の国連ミレニアム総会で森総理(当時)は、日本が人間の安全保障を外交の柱に据えることの宣言等を行 った。その後、世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)、日本・太平洋諸島フォーラム(PIF)、TICA 等、様々な場において、歴代の総理が人間の安全保障を提唱している。最近では、安倍総理が「持続可能な開発のための203 アジェンダを採択する国連サミット」、「第 70 回国連総会サイドイベント『UHC への道筋』」、「ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)に関する国際会議」等において言及している。
15TICAD(Tokyo International Conference on African Development):アフリカの開発をテーマとする国際 会議であり、1993 年以降、日本政府が主導し、国連、国連開発計画(UNDP)、アフリカ連合委員会(AUC) 及び世界銀行と共同で開催しており、第 6 回目となる TICAD Yは、本年、初めてアフリカで開催予定。
16エボラ出血熱・MERS の発生拡大による経済損失
○西アフリカでのエボラ出血熱の発生・拡大による経済損失
単位 : 10 億米ドル2014 年2015 年
(低い予測)(高い予測)
経済損失(※1)0.359
(GDP 比 2.4%)(※2)
0.1290.815
○韓国での MERS の発生・拡大による経済損失
 2015 年 7 月末時点
経済損失予測(※3)9 兆 3,377 億ウォン(※4)(GDP 比 0.61%)(※2)
  • (※1) The Economic Impact of the 2014 Ebola Epidemic: Short and Medium Term Estimates for Guinea, Liberia, and Sierra Leone. WORLD BANK, October 7, 2014 (※2) World Economic Outlook Database,IMF,April,2015 から算出
  • (※3) 韓国経済研究院「MERS事態の経済的損失推定レポート」(2015 年 6 月)
  • (※4) 約 9,954 億円(2015 年 7 月 30 日換算)
  • ○仮に、日本で韓国と同様の感染症が拡大する事態が発生し、同程度の経済損失が生じた場合には、上記韓 国の経済損失をベースに粗い推計を行うと、約 3 兆円(≒日本の GDP 約 489.6 兆円(※5)×0.61%)の経済的損失となる。
  • (※5) 内閣府「国民経済計算」における平成 26 年度名目 GDbrP

V.重点プロジェクト(施策群)について

国際的に脅威となる感染症対策の強化について、特に関係行政機関等が連携協力 し、戦略的に進めていくべき施策群として、以下の 5 つを重点プロジェクトとして 位置づけ、関係施策を一体的かつ強力に推進する。

1.開発途上国感染症対策強化プロジェクト

(1) グローバル・ヘルス・ガバナンスの新たな枠組みの構築への主導的貢献

○ 先般の西アフリカにおけるエボラ出血熱の感染拡大の際の国際機関等の対応 を踏まえ、本年G7議長国として、国連ハイレベルパネルの報告書等も踏まえ、 感染症対策のためのグローバル・ヘルス・ガバナンスの在り方、特に、今後の感 染症危機対応に係る国際機関の役割分担や対処の仕組みに関する基本的な考え 方について、一定の結論が得られるよう、国際的な議論を主導するとともに、ま た、公衆衛生危機への対応と準備に関する WHO 内の指揮系統能力の強化等を行う WHO 改革を支援する。

○その際には、感染症の拡大規模や発生国の対応の能力の程度に応じた国際機関 の役割分担、人材・物資・資金を迅速・効果的に支援が必要な現場に届けるため の国際機関、ドナー・開発途上国、NGO 等のコーディネートの仕組み、説明責任 の確保方策、研究開発(R&D)の促進体制、保健システムの強化に向けた開発途 上国の支援方策等について方針を取りまとめるべく検討・調整を進める。

○ また、こうした基本的な考え方に基づき、国際的な対応が十全に機能する具体 的な体制が整備されるよう、G7 後も引き続き、積極的な貢献を果たしていく。
【内閣官房、外務省、財務省、厚生労働省】

(2) WHO の緊急対応基金等及び世界銀行によるパンデミック発生時の機動的 資金提供メカニズムの構築への貢献

○ 感染症危機時のファイナンスメカニズムとして機能する WHO の「緊急対応基 金」(CFE)17と世界銀行の「パンデミック緊急ファシリティ」(PEF)18については、CFE に対する支援を通じ、WHO の緊急対応強化の取組に積極的に貢献するととも に、PEF の立ち上げに際しても、我が国としてふさわしい貢献を行う。また、そ の際に、それぞれが重複なく相互補完的に機能することが重要であることから、 WHO と世界銀行間の調整が円滑に進むよう、関係省庁が連携し様々な機会を捉え て、我が国の考え方を示し、これらの実現に向けて両機関における検討に日本と して寄与する。【内閣官房、外務省、財務省、厚生労働省】


17緊急対応基金(Contingency Fund for Emergency(CFE)):西アフリカにおけるエボラ出血熱の感染拡大の 際に直面した、資金調達の遅れと財源の柔軟な使途の調整の制約を反省として、感染症のアウトブレイクや緊急事態への WHO による初期対応を迅速に行うため、2015 年 1 月の WHO 執行理事会において創設が決定 されたもの(基金規模は100 百万米ドル)。我が国としては、平成 27 年度補正予算において、同基金に対する拠出金として、12億円を計上。また、現時点において、同基金に対する拠出を表明しているのは、英 国(10 百万米ドル)、中国(2 百万米ドル)、フランス(1.3 百万ユーロ)、ドイツ(1 百万ユーロ)、インド(1 百万米ドル)。
18 パンデミック緊急ファシリティ(Pandemic Emergency Financing Facility(PEF)):エボラ出血熱からの教訓を踏まえ、世界銀行が検討している、民間の保険スキーム等を活用した、パンデミック対応のための新たな資金メカニズム。CFE を活用したWHO による初期対応にもかかわらず感染症が拡大した際、一定の要件を満たした場合に支出するための仕組みであり、2015 年 6 月の G7 エルマウ・サミット首脳宣言でも、 PEF を構築する世銀のイニシアティブを支持する旨言及。PEF の資金は、感染症流行国に加え、WHO を含む 国際機関、非政府組織等に配分される仕組みとなる予定。
(3) 開発途上国の感染症対策に係る官民連携プラットホーム(仮称)の設置

○ 高度な医療技術を有する日本の医療業界等と我が国政府が官民一体となって、 様々な国際的な団体とともに、国際的な感染症対策により一層貢献し、併せて我 が国の医療業界等の新たな市場開拓に資する観点から、「開発途上国の感染症対 策に係る官民連携プラットホーム(仮称)」(以下「官民連携プラットホーム」と いう。)を設置する。【内閣官房、外務省、厚生労働省】

○ 官民連携プラットホームは、関係省庁、独立行政法人国際協力機構(JICA)、 国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)19、国内医薬品・医療機器関連団 体等を構成員とし、必要に応じ、世界エイズ・結核・マラリア対策基金(グロー バルファンド)、グローバルヘルス技術振興基金(GHIT Fund)20、Gavi ワクチン アライアンス21等の参加を求め、開発途上国における感染症を取り巻く保健ニー ズ等に関する情報収集を行いつつ、開発途上国に対する治療薬・診断薬・ワクチ ン及び防護服等の資機材の提供可能性やその効果的かつ継続的な提供方法、資機 材の技術的支援を含むデリバリーシステムの在り方、これらの支援に関する現地 での関係機関の連携の在り方等について検討・調整を行い、関係機関によるその 円滑な実施を図る。【内閣官房、外務省、厚生労働省】

(4) 開発途上国に対する医薬品の迅速・円滑な供給の促進等

○ 我が国で開発された感染症治療薬等の円滑な供給を目指し、国際薬事規制調 和戦略に基づき、日米欧の規制当局が参加する医薬品規制調和国際会議(ICH) で医薬品の規制調和のためのガイドラインを共同で策定し、諸外国への普及を 図る。【厚生労働省】


19 国立研究開発法人日本医療研究開発機構:Japan Agency for Medical Research and Development(AMED)
20グローバルヘルス技術振興基金:Global Health Innovative Technology Fund(GHIT Fund)
21Gavi ワクチンアライアンス(Gavi, the Vaccine Alliance(Gavi)):開発途上国の予防接種率を向上させ ることにより子供たちの命と人々の健康を守ることを目的として設立された官民パートナーシップ。ドナ ー(援助国)および開発途上国政府、関連国際機関に加え、製薬業界、民間財団、市民社会が参画してい る。

○感染症に係る革新的医薬品の開発・承認において、先駆け審査指定制度の活用 や独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)の優先対面助言の対象とするこ と等により迅速な開発を図るとともに、供給に際しては、供給先国との協定の締 結等により、緊急時を含め、当該医薬品の円滑な供給体制を整備する。【厚生労働省】

○感染症危機時に緊急に開発が必要となった医薬品について、官民連携プラット ホームの下に設置する「開発促進チーム」(関係省庁、国立研究開発法人日本医 療研究開発機構(AMED)、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)、グロー バルヘルス技術振興基金(GHIT Fund)、当該医薬品メーカー等)において、臨床 研究の支援策・供給体制等について、迅速に検討の上、その実施を図る。【内閣 官房、外務省、厚生労働省】

○各種感染症対策に係る我が国が有する診断から治療・予防までの一連の製品・ 技術等について、官民連携プラットホームでの検討・調整を行いつつ、パッケー ジ化22し、「日本発」の製品の国際展開を図る。【内閣官房、外務省、厚生労働省】

○ 本年 4 月に設置される PMDA の「アジア医薬品・医療機器薬事トレーニングセ ンター」において、アジア規制当局のニーズ等に応じ、我が国の知見及び我が 国で開発された感染症治療薬の副作用情報を積極的に情報提供し、アジア各国 における感染症治療薬の適正な使用を支援する。【厚生労働省】

(5) 国際機関との協力強化による開発途上国の感染症対策の充実 以下の国際機関との協力の強化を図ることにより、開発途上国における感染症対策の充実を図る。

(5)-1 グローバルファンドによる三大感染症対策への支援

○2000 年の九州・沖縄サミットで日本が提唱し、2002 年にエイズ・結核・マラ リアの三大感染症対策のための資金支援機関として設立された「世界エイズ・結 核・マラリア対策基金(グローバルファンド)」について、2012 年から 2016 年ま での 5 か年計画で開発途上国における三大感染症から 1,000 万人を救うことが 目標とされている中で、我が国として、第4次増資期間(2014 年〜2016 年)も 引き続き支援23を推進し、開発途上国における三大感染症の予防・治療・ケアの実現や保健システム強化の促進を遅滞なく進める。【外務省】


22例えば、各製薬会社等がそれぞれ開発している診断法、耐性の検査法、治療薬等を効果的な組み合わせと して、パッケージ化する取組を推進する。
232013 年 12 月の第 4 次増資会合で、我が国としては、2014 年以降当面 8 億ドルの拠出をプレッジ。我が国は、これまで平成 25 年度補正予算で 237 億円、平成 26 年度補正予算で 185 億円を拠出しており、平成 27年度補正予算において、197 億円を計上。

○また、次期増資期間(2017 年〜2019 年)については本年第 5 次増資会合が開 催される予定であるところ、昨年 12 月の第 5 次増資準備会合における議論等を 踏まえ、我が国として適切な支援を行う。【外務省】

(5)-2 Gavi ワクチンアライアンスによる予防接種活動等への支援

○ 開発途上国の予防接種率の向上により、子どもたちの命と健康を守ることを目 的として設立された官民パートナーシップである「Gavi ワクチンアライアンス」 について、その活動により平成 32 年までに 1,200 万人以上が救われることを目指すとの目標(平成 26 年実績 710 万人)に向け、5 価ワクチン(ジフテリア、破 傷風、百日咳、B 型肝炎、インフルエンザ菌 b 型(Hib))、黄熱病、麻しん等のワ クチン及び新型ワクチン(肺炎球菌、ロタウイルス)の普及支援や予防接種の普 及を効果的に行うための保健システムの強化等を行うため、我が国として支援24を推進し、費用対効果の高い予防接種を安価に供給するための包括的な取組の実 施を支援する。【外務省】

(5)-3 グローバルヘルス技術振興基金(GHIT Fund)等を通じた新薬開発等の促進

○ 平成 24 年 11 月に外務省、厚生労働省、内資系製薬企業及びゲイツ財団の官民 パートナーシップにより設立されたグローバルヘルス技術振興基金(GHIT Fund) について、我が国の製薬産業の優れた研究開発力を活かして、喫緊の課題となっ ている開発途上国向けの顧みられない熱帯病(NTDs)、結核、マラリア等の医薬 品研究開発を官民連携で促進するため、我が国として支援 25を推進し、開発途上 国向けの医薬品の研究開発支援及び供給準備・供給支援を行う。【外務省、厚生労働省】

○国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)が研究管理を行う「医療分野 国際科学技術共同研究開発推進事業」(地球規模課題対応国際科学技術協力プロ グラム(SATREPS)26・アフリカにおける顧みられない熱帯病(NTDs)対策のため の国際共同研究プログラム)において、現地ニーズに基づいた治療薬・診断薬・ ワクチンの開発等のための国際共同研究を推進する。【外務省、文部科学省、厚生労働省】


24我が国は、これまで平成 25 年度当初予算で 7.4 億円、平成 26 年度当初予算で 8.4 億円、平成 26 年度補正予算及び平成 27 年度当初予算で 17 億円を拠出しており、平成 27 年度補正予算において、20 億円を計 上。
25我が国においては、これまでに GHIT と連携した国連開発計画(UNDP)の活動において、平成 24 年度補正予 算で 14 億円、平成 25 年度補正予算で 56 億円を拠出しており、平成 27 年度補正予算において、14 億円を 計上。
26地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(SATREPS)については、外務省、独立行政法人国際協力 機構(JICA)と連携して実施している。
(5)-4 クラウドファンディング 27の活用等による国民的支援の推進

○感染症に係る国際機関の取組に対して国内の NGO 等が共同して国民や企業に 対して広く行うクラウドファンディング等による援助や企業が発行するワクチ ン債 28等による支援について、官民連携プラットホームの場も活用し、その活性 化を促進する。【内閣官房、外務省、厚生労働省】

(5)-5 薬剤耐性(AMR)グローバル・アクション・プラン達成に向けた AMR 対策支援 の推進

○昨年 5 月に WHO 総会で採択された「薬剤耐性(AMR)グローバル・アクション・ プラン」では、その加盟国が 2 年以内に国家行動計画を策定し、その履行状況を報告するよう求めている。本年 3 月に策定する「薬剤耐性(AMR)対策アクショ ンプラン」に基づき、WHO 及び OIE29が AMR に対する国際的な取組を促進するた めのコミットメントの強化を支援するとともに、特にアジアに関して、薬剤耐性 に係るサーベイランス、感染予防・管理等に関する国際協力を積極的に推進する。【外務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省】

2.国際感染症対応人材育成・派遣プロジェクト

(1) 「国際感染症等対応人材登録システム」30の創設等

○国際的に脅威となる感染症に対する我が国の人的支援を強化するため、感染症 が発生・拡大している国へ派遣される国際緊急援助隊・感染症対策チーム(JDR: Japan Disaster Relief Team・Infectious Diseases Response Team)の隊員候補 となる人材の登録を推進するとともに、国際機関等での活躍を期待できる、感染 症を含む幅広い分野の国際保健人材(政策人材・技術人材)を育成・確保するた め、内閣官房・外務省・文部科学省等の関係省庁の協力も得つつ、厚生労働省等 においてその育成強化・情報集約の方策を早急に検討し、早期に取組を開始する。
その上で、それぞれの仕組み等について、「国際感染症等対応人材登録システム」 として、関係者に登録を勧奨するとともに、情報共有を図りつつ、平成 32 年度 には、500 名 31の登録者数を目指す。【内閣官房、外務省、文部科学省、厚生労働省】


27Crowd Funding:不特定多数の人々からインターネット等を経由して資金調達を図ること
28ワクチン債(ワクチンボンド):英国政府の提唱により、予防接種のための資金を円滑に調達し Gavi ワク チンアライアンスを支援するため、2006 年に設立された多国間開発機構である IFFIm(International Finance Facility for Immunisation(予防接種のための国際金融ファシリティ))が発行する債券。本債 券の発行によって得られた資金は、Gavi ワクチンアライアンスを通じて、開発途上国で予防接種の普及や 医療システムの強化等のために使用。その設立以来、国際資本市場で 38.5 億米ドル相当の資金を調達。 IFFIm の寄付国は、英国・フランス・イタリア・スペイン・オランダ・スウェーデン・ノルウェー・南アフ リカ・オーストラリアの 9 カ国。なお、2008 年には日本の証券会社が発行し、2013 年 3 月に発行されたも のまでの販売合計額は 1,250 億円。
29国際獣疫事務局(World Organisation for Animal Health(略称:OIE):1924 年に 28 カ国の署名を得て フランスのパリで発足した世界の動物衛生の向上を目的とした政府間機関。2015 年 5 月現在 180 の国と地 域が加盟し、我が国は 1930 年 1 月 28 日に加盟した。
30国際緊急援助隊・感染症対策チームの登録の仕組みと厚生労働省等における感染症を含む幅広い分野の国 際保健人材の育成強化・情報集約の方策の総称。登録・メンテナンス等はそれぞれの仕組み等で行う。
(2) 国際感染症等対応人材の育成

○ 国際緊急援助隊・感染症対策チーム及び厚生労働省等において育成強化・情報 集約される人材の育成のため、臨床、疫学、検査・診断、ロジスティクス、マネ ジメント及び国際保健政策等の分野ごとに求められる適性を明確にしつつ、横断 的な視点も含め、関係機関(国立研究開発法人国立国際医療研究センター(NCGM)、 国立感染症研究所、JICA 等)が連携した効果的な人材育成プログラムを整備し、 研修を計画的に実施するとともに、大学における感染症に関する人材育成を推進 する。【内閣官房、外務省、文部科学省、厚生労働省】

○その研修の一環として、厚生労働省の「感染症危機管理専門家養成プログラ ム」32及び国立感染症研究所の「実地疫学専門家養成コース(FETP-J)」33による海 外派遣機関や国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)が研究管理を行う 「感染症研究国際展開戦略プログラム(J-GRID)」34のアジア・アフリカ諸国の研 究開発拠点の活用等により、海外における実務研修を行う。【文部科学省、厚生労働省】

○国際緊急援助隊・感染症対策チームの派遣体制の整備に向けて、感染症対策チ ーム支援委員会及び作業部会において課題検討を行うとともに、派遣要員登録者 に対し、国際緊急援助一般に関する導入研修及び専門分野に応じた機能別研修を 順次実施する。【外務省】


31500 名の内訳は、「国際緊急援助隊・感染症対策チーム」への登録者数 200 名、国際機関等へ派遣できる、 感染症を含む幅広い分野の国際保健人材政策人材の育成・集約者数 300 名(それぞれの人数は一部重複があり得る)。なお、現在、「国際緊急援助隊・感染症対策チーム」への登録希望者数は 138 名(平成 27 年 12月 22 日時点)。WHO の邦人職員数は 43 名(平成 26 年 12 月 31 日時点)、その他国際機関(全米保健機構(PAHO)、国連エイズ合同計画(UNADIS)、国連開発計画(UNDP)、国連人口基金(UNFPA)、国連児童基金(UNICEF)、世界銀行(WB))において国際保健に関わる邦人職員数は 60 名程度、感染症研究国際展開戦略プログラム(J-GRID)第三期(平成 27 年度〜平成 31 年度)の海外研究拠点における邦人職員数は 41 名。
32厚生労働省が平成 27 年度に開設した感染症危機管理におけるスペシャリストを育成するためのプログラム
33実地疫学専門家養成コース:国立感染症研究所において、感染症危機管理事例を迅速に探知して適切な対 応を実施するためのコアとなる実地疫学者を養成しその全国ネットワークを確立することを目的として、 平成 11 年に設置されたもの。感染症対策業務に当たる医師・獣医師等や国・都道府県等の感染症対策等地 域保健業務に従者する者等を対象に、2 年間の実務研修を行うものであり、現在第 17 期研修員が受講中で あり、その修了生は計 64 名。
34アジア・アフリカに整備した海外研究拠点(中国、ベトナム、インドネシア、ザンビア、ミャンマー、フ ィリピン、タイ、インド、ガーナの 9 か国 9 拠点)を活用し、各地で蔓延する感染症の病原体に対する疫 学研究、診断治療薬等の基礎的研究を推進し、感染制御に向けた予防や診断治療に資する新しい技術の開 発、高度専門人材の育成を目的としたプログラム

○ 感染症対応の専門的知見を有する自衛隊の医官等の増員及び能力の向上を図 るため、研修の拡充や研修修了後の継続的な技能維持方策を検討する。【防衛省】

(3) 国際感染症等対応人材の派遣

○「国際緊急援助隊・感染症対策チーム」派遣要員については、「国際緊急援助 隊・感染症対策チーム」の派遣の枠組みにより、感染症の発生・拡大時には速や かに派遣できるよう準備を進める。また、厚生労働省等において育成強化・情報 集約の仕組みを早急に検討の上、その実施を図り、国際機関等での活躍を期待で きる、感染症を含む幅広い分野の国際保健人材(政策・技術人材)の派遣を促進 する。【外務省、厚生労働省】

○ 国際緊急援助隊・感染症対策チームの派遣体制の整備に向けて、JICA による 導入研修及び機能別研修のほか、感染症の流行を想定したシミュレーション訓練 等を実施するとともに、チームが派遣される際の携行資機材を導入し、その保管、 維持・管理、見直しを継続的に行うほか、WHO の持つ専門性やネットワークを十 分活用することにより感染症に関する情報共有・意見交換を行いつつ、同チーム の活動の安全、適切な活動内容の確保を図る。【外務省】

○「国際緊急援助隊・感染症対策チーム」への参加隊員が活動中に感染症に罹患 した場合に、同人の健康被害を最小化し、その生命の安全を確保するために、本 格的なチーム派遣の体制整備の完了の目標時期としている平成 28 年度第 2 四半 期までに、我が国を含む安全な場所への搬送等のサービスを提供する民間企業と の間での契約の締結を目指す。【外務省】

○ 国際緊急援助隊・感染症対策チームが国際緊急援助活動を行うにあたり、民間 アセットでは対応が困難な場合で、他の代替手段によることができない場合は、 外務省と防衛省が協議し、当該活動を支援するため、厚生労働省、外務省等関係 省庁と連携して、必要な人員又は資機材その他の物資の海外の地域への自衛隊に よる輸送を実施する。【内閣官房、外務省、厚生労働省、防衛省】

(4) 国際感染症等対応人材のキャリアパス支援

○ 国際機関等での活躍を期待できる、感染症を含む幅広い分野の国際保健人材 (政策・技術人材)について、キャリアパスを支援する観点から、厚生労働省等 において、外務省や文部科学省などの関係省庁の協力も得て、派遣先となり得る 国際機関や、国内の関係機関のポスト、求められる能力等の情報収集・提供、現 状分析を継続的に行うとともに、それらの情報等を活用することにより、当該人材と国内関係機関とのマッチングを図る。【外務省、文部科学省、厚生労働省】

3.感染症危機管理体制強化プロジェクト

(1) BSL4 施設を有する国立感染症研究所を中心とした危険性の高い病原体 等の検査体制の強化及び予防・治療等に係る業務の推進

○国立感染症研究所において、エボラ出血熱等の一類感染症に係る確定検査を行 うことを基本として、その検査機能の強化及び予防・治療等に係る業務の推進を 図る。【厚生労働省】

○国内においてエボラ出血熱等の一類感染症等が発生した場合に備え、地方衛生 研究所・検疫所において検体検査を迅速に行う体制を整備し、一類感染症等に係 る全国的な検査体制の強化を図る。検査体制の強化に当たっては、標準作業手順 書の作成・周知とそれを基にした研修を行い、また、地域ブロックごとにネット ワークを構築しつつ、段階的に公的検査機関の体制強化を図る。【厚生労働省】

(2) 海外における感染症情報の収集・分析・評価・提供の強化

○国立感染症研究所の情報収集・分析・評価機能を強化するため、WHO 等の国際 機関、米国 CDC35や他国公衆衛生機関、在外公館、国内外のメディア等からの必 要な情報を一元的に集約・管理するとともに、判断・処理プログラム等を活用し てこれらの情報を迅速かつ的確に分析・評価する体制を整備する。【外務省、厚 生労働省】

○海外において発生した感染症について、発生国内の公衆衛生等に関する情報収 集を強化するため、在外公館の医務官 36の感染症に係る専門的知識の習得を目的 とした研修を国立感染症研究所等において開始する。【外務省、厚生労働省】

○在外邦人に対する感染症危険情報の発出、健康安全講話 37の実施等によるリス クコミュニケーションが適切に行われるよう、外務省、厚生労働省及び国立感染 症研究所の連携体制を整備する。また、健康安全講話については、必要に応じて 感染症の流行国・地域に専門医を派遣して実施する。【外務省、厚生労働省】


35Centers for Disease Control and Prevention:アメリカ疾病管理予防センター
36主として医務に関する事務に従事する職員であり、在外公館の職員・家族の健康管理を行うとともに、現 地の医療事情を調査して在外邦人に随時情報を提供している。(平成 28 年 1 月現在において 95 の在外公館に計 97 名を配置。)
37感染症への不安を抱えながら生活している在外邦人に対し、医学的見地からの正確な知識や予防策等につ いて情報提供を行う

○ エボラ出血熱や今後の国際的な状況を踏まえ対応が必要となる感染症につい て、それぞれ有識者を選定し、今後、国内対策や国際的な対応が必要となった場 合に専門的な相談が迅速かつ円滑に行える体制を整備するとともに、これにより 政府におけるリスクコミュニケーションの充実を図る。38【内閣官房、外務省、 厚生労働省】


38新型インフルエンザ等対策特別措置法(平成 24 年法律第 31 号)第 2 条第 1 号に規定する「新型インフル エンザ等」については、同法において、基本的対処方針の策定等に当たり感染症に関する専門的な知識を 有する者その他の学識経験者の意見を聴くこととされており、「新型インフルエンザ等対策有識者会議」が 設置されている。

4.感染症研究体制推進プロジェクト

(1) 感染症研究拠点の形成

○ 国内の大学等の研究機関における感染症に係る基礎研究能力の向上及び危険 性の高い病原体等の取扱いに精通した人材の育成・確保等を図るため、病原体解 析、動物実験、治療法・ワクチン開発等の研究開発が可能な最新の設備を備え、 安全性の確保に最大限配慮した BSL4 施設を中核とした感染症研究拠点の形成に ついて、長崎大学の検討・調整状況等も踏まえつつ、必要な支援を行うなど、我 が国における感染症研究機能の強化を図る。【内閣官房、文部科学省、厚生労働省】

○このため、本年度内に、関係省庁、関係自治体及び大学等から構成される協議 会を内閣官房に設けて、上記の BSL4 施設を中核とした感染症研究拠点の形成に 必要な支援方策等について以下の点を含め検討・調整し、推進する。【内閣官房、 文部科学省、厚生労働省】

  • @ BSL4 施設の具体的な活用方策等(感染症に関する病原体や疫学等の基礎研 究・人材育成、医薬品創出のための研究開発等、そのためのネットワークや連 携・協力の在り方)
  • A BSL4 施設の機能及び運営方法等の在り方

○ 国立感染症研究所において、BSL4 施設等の試験検査、予防及び治療等に係る 機能を強化するとともに、病原体等に係る管理体制、施設整備・維持管理等に関 する研修を実施し、BSL4 施設の運営管理等に必要な人材を育成する。【厚生労働省】

(2) 危険性の高い病原体等の感染症関係の研究開発の推進

○ 「医療分野研究開発推進計画」(平成 26 年 7 月 22 日健康・医療戦略推進本部 決定)に基づき、一類感染症の病原体等に係る研究開発をはじめ、感染症関係の 研究開発を、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)による基礎から実用化まで切れ目ない研究支援の下で着実に推進する。これにより、科学的根拠に 基づく施策の推進を図るとともに、研究成果を治療薬・診断薬・ワクチンの開発 等につなげるほか、国際共同研究等を推進し、大学等研究機関の人材育成を図る。【内閣官房、文部科学省、厚生労働省】

5.感染症国内対処能力強化プロジェクト

(1) 薬剤耐性(AMR)39対策の推進

○ 薬剤耐性(AMR)に関する対策の総合的な推進を図るため、推進チームの下に、 昨年 12 月、「薬剤耐性に関する検討調整会議」を設置・開催した。同会議におい て、ワンヘルス40の視点に基づき、医療、畜水産、食品安全等の分野にわたる横 断的な取組の検討を進め、本年 3 月までに、我が国としての「薬剤耐性(AMR)対 策アクションプラン」を策定し、薬剤耐性(AMR)対策の強化を図る。【内閣官房、 内閣府、外務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省】

○国立感染症研究所において、薬剤耐性菌等による院内感染症に関するサーベイ ランス(JANIS)41や病原体解析の体制強化を行うとともに、国立研究開発法人国 立国際医療研究センター(NCGM)等と連携して、我が国の薬剤耐性菌対策に係る 感染症制御機能を包括的に担える体制を構築する。【厚生労働省】

(2) 国内関係機関の体制等の強化

(2)-1 検疫所及び地方自治体の体制・機能の強化

○検疫所において、諸外国における感染症の発生や訪日外国人旅行者の増加に対 応するため、人的体制を整備するとともに、感染症の疑いのある者の待機室(陰 圧室)、空調等の設備、発熱者を発見するためのサーモグラフィー等の機器の整 備を計画的に進めることにより、必要な検疫機能の強化を図る。また、地方自治 体・保健所・地方衛生研究所においても、人材育成等を通じて機能の強化を図る。 【厚生労働省】

(2)-2 感染症指定医療機関の体制・機能の強化

○国内における感染症発生時に適切な対応を行うため、一類及び二類に対する感 染症指定医療機関の運営に対する継続的な補助を行うとともに、第一種感染症指 定医療機関が未整備の県 42の解消を図る。【厚生労働省】


39薬剤耐性:Antimicrobial resistance(AMR)
40One Health:一つの政策方針の下に、ヒトや動物の衛生、環境の分野を一体的に推進する概念
41院内感染対策サーベイランス(Japan Nosocomial Infections Surveillance(JANIS)):医療機関における 院内感染の発生状況、薬剤耐性菌の分離状況及び薬剤耐性菌による感染症の発生状況を調査し、我が国の 院内感染の概況を把握し医療現場への院内感染対策に有用な情報の還元等を行うことを目的としたシステ ム。
42都道府県で 47 箇所整備されており、未整備県は秋田県、宮城県、石川県、香川県、愛媛県、鹿児島県(平成 28 年 1 月現在)

○特定感染症指定医療機関について、エボラ出血熱の患者に対する海外での医療 機関の対応も踏まえ、エボラ出血熱等の重症患者に対する集中治療が行えるよう 設備の充実を計画的に進め、その機能の強化を図る。【厚生労働省】

○特定感染症指定医療機関の一つである国立研究開発法人国立国際医療研究セ ンター(NCGM)について、抗微生物薬の適正使用等医療分野における薬剤耐性 (AMR)対策の推進のために必要な体制を整備するとともに、エボラ出血熱及び中 東呼吸器症候群(MERS)等の流行時に国内医療機関等の要請に基づき、当該セン ターの職員を専門家として派遣する臨床感染症対応派遣サービス(Infectious diseases Response Service (IRS))43について、継続的に対応できる体制を整備 する。【厚生労働省】

(2)-3 自衛隊における感染症対応能力向上のための態勢の整備

○自己完結的な治療の実施及び専門的人材の臨床教育の場として、防衛医科大学 校病院及び自衛隊中央病院において、早期に第一種感染症指定医療機関の指定を 受けることを目指すとともに、防衛医科大学校及び自衛隊中央病院等において感 染症事案に対応するための態勢の充実を図る。【防衛省】

W.各分野別施策について

Vの重点プロジェクトに掲げる施策のほか、国際協力の推進、国内検査・研究体 制の整備、感染症対策に係る人的基盤の充実、国内における感染症防止対策及び在 外邦人の安全対策の強化の分野ごとに、基本方針に基づく以下に掲げる各種施策の 着実な推進を図る。
また、今般、中南米で感染拡大しているジカウイルス感染症について、関係省庁 対策会議等を通じて、今般の状況に応じた適切な対策を関係省庁が連携して迅速に 講じていくこととする。44

1.国際協力の推進

(1) 緊急対応のための国際機関等との協力強化
(1)-1 WHO の IHR45の履行確保・強化、GOARN46の基盤強化の支援

○WHO の国際保健規則(IHR)の開発途上国による履行を支援することは、将来の 公衆衛生危機の発生が流行に転じることを防止する観点から必要不可欠である ため、我が国として、引き続き、WHO 等への支援の推進を通じて、IHR の開発途 上国による履行確保・強化を促す。【外務省、厚生労働省】

○GOARN について、感染症危機の発生時に迅速な対応を行えるよう、WHO におけ る「感染症対策事業」への支援の推進を通じて、平時から、その派遣前トレーニ ングの実施体制や連絡体制を強化する。【厚生労働省】

(1)-2 国際通貨基金(IMF)による大規模災害抑止・救済基金への対応

○ 国際通貨基金(IMF)は、災害発生から 2 年以内に返済期限を迎える当該加盟国 の IMF に対する債務の支払いに充てるため、IMF「大規模災害防止・救済基金」(CCR 基金:The Catastrophe Containment and Relief (CCR) Trust)47を通じ て即時に無償資金を提供しており、我が国として、当該基金の取組に対する貢 献を行う。【財務省】


44感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律施行令及び検疫法施行令の一部を改正する政令 (平成 28 年 2 月 5 日政令第 41 号)により、ジカウイルス感染症は、感染症法上の四類感染症及び検疫法 上の検疫感染症に位置づけ、対策を強化した。
45国際保健規則(International Health Regulations(IHR)):世界保健機関(WHO)憲章第 21 条に基づく国 際規則。加盟国(2016 年 1 月現在 194 か国)に対して、感染症の事象の発見、評価、通報する能力の構 築・維持等の履行等を規定している。
46Global Outbreak Alert and Response Network(GOARN):WHO を中心とした感染症対策の国際的な枠組みで あるグローバル感染症警報・対応ネットワーク。感染者等の情報収集、重要情報の発信、発生国における 早期対応の技術的支援等を目的として運用されており、我が国では国立感染症研究所が参加している。
47パンデミックが発生し、重大な経済の停滞がある加盟国に対して、当該加盟国のマクロ経済の悪化を緩和 することを目的とするもの。
(1)-3 UNDP、UNICEF、UNFPA 等実施機関との協力及び政策対話
○国連開発計画(UNDP)、国連児童基金(UNICEF)及び国連人口基金(UNFPA)に ついて、それぞれ日・UNDP 戦略対話、日・UNICEF 政策協議及び日・UNFPA 政策協 議等の機会を捉え、保健分野における今後の連携協力を強化するための情報収集 や意見交換を行う。【外務省】

(2) 開発途上国における感染症の拡大防止及び予防のための保健システムの強化
(2)-1 開発協力を活用した保健システム強化、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の推進

○開発途上国が抱える課題は多様であり、各国の経済状況や前提となる保健シス テムの状況も様々である中で、相手国の自助努力を支援し、自立的発展に向けた 協力を行うことも重要であることから、技術協力・有償資金協力・無償資金協力 を相手国の状況に合わせて有機的に組み合わせ、他ドナー(疾患別の取組を行う 国際機関を含む。)や民間との連携の可能性にも留意しつつ、迅速かつ柔軟に運 用する。【外務省、財務省】

○ 各国における保健システム強化策の実施段階に応じた分野ごとの専門家を派 遣しての直接支援や人材育成を図るとともに、日本の知見の積極的な発信を行う。 【厚生労働省】

○ グローバルファンドをはじめとした国際機関等や他のドナーとの連携を通じ、 開発途上国の保健システム強化を推進する。【外務省、厚生労働省】

○世界健康安全保障アジェンダ(GHSA)48の枠組みを通じたものを含め IHR の履 行に資する支援を行う。また、これまで我が国が支援してきた野口記念医学研究 所49の体制の整備及び人材の育成等を通じ、開発途上国における IHR の徹底を支 援する。【外務省、厚生労働省】

○ 日本政府と世界銀行との UHC 共同研究50の成果を踏まえ、世界銀行の日本信託基金を通じて、世界銀行による UHC に資する活動への支援を推進する。【財務省】


48世界健康安全保障アジェンダ(Global Health Security Agenda(GHSA))とは、世界各国での感染症対策の 能力を向上させることを目的として、WHO の既存の公衆衛生危機に関する枠組み(IHR:国際保健規則)を 各国とWHO、FAO(国連食糧農業機関)及びOIE(国際獣疫事務局)等国際機関とも連携して強化する新し い取組。米国が主導して2014年 2 月に立ち上げられた多国間の枠組み。我が国は、ベトナム、フィリピ ン、ミャンマー、ケニア、ガーナ、セネガル、ザンビアの7か国を、当面の支援対象国として選定してい る。
49野口記念医学研究所:ガーナにおいて黄熱病研究に従事して病に倒れた野口英世博士の名を冠し、日本の 無償資金協力(総額 32.6 億円)により昭和 54 年に設立された(平成 12 年拡張)ガーナにおける医学研究 の中心機関。我が国は、同研究所に対してこれまで 30 年以上にわたり技術協力を行い、ガーナにおける医 学研究分野における人材育成に貢献。
50「日本政府と世界銀行による保健共同研究」:日本が 1961 年に国民皆保険を達成してから、2011 年に 50 周年を迎えたことを機に、日本の UHC に関する経験・知見を開発途上国と共有し、各国の UHC に向けた取 組への適用可能性を検討することを目的として実施。研究対象国は、日本に加え、バングラデシュ、ブラ ジル、エチオピア、フランス、ガーナ、インドネシア、ペルー、タイ、トルコ及びベトナムの11か国
(2)-2 感染症発生後の緊急支援及び保健システム回復支援

○感染症発生時の緊急無償資金協力及び緊急援助物資の供与、国際機関への資金・物資の供与、専門家の派遣等人的支援により、被災国の緊急対応支援、人材育成・医療品供与・保健情報システム構築等を行い、感染症拡大により機能不全 に陥った保健システムの回復及び保健システム強化により次の感染症の発生・拡大を防ぐ。【外務省】

2.国内における感染症に係る危険性の高い病原体等の検査・研究体制の整備

(1)国立感染症研究所の検査体制等の整備

○国立感染症研究所において、BSL4 施設の厳格な管理体制を確立し、安全で開 かれた透明性のある施設運営を図るために地元自治会、学識経験者、地元自治体・ 消防、保健所、国立感染症研究所、厚生労働省等から構成される連絡協議会を定 期的に開催する等により、積極的な情報開示や地域とのコミュニケーションを推 進し、BSL4 施設における検査、治療、予防等に係る業務を安全かつ安定的に実施 できる状況を整備する。【厚生労働省】

(2) 我が国における BSL4 施設の在り方の更なる検討

○我が国における BSL4 施設の設置・整備については、「感染症危機管理体制強化 プロジェクト」及び「感染症研究体制推進プロジェクト」による推進のほか、地域的なバランス等に配慮した更なる BSL4 施設の整備の必要性や各施設の機能分 担・連携等について検討を行う。【内閣官房、文部科学省、厚生労働省】

3.国際社会において活躍する我が国の感染症対策に係る人的基盤の充実

「国際感染症等対応人材育成・派遣プロジェクト」による取組に加え、以下の感 染症危機管理専門家養成プログラム等による人材の育成を推進する。

○ 平成 27 年 4 月から開設した感染症危機管理専門家(IDES)養成プログラムに より、毎年約 5 名を目安に感染症に関する臨床・疫学的知識、公衆衛生対応能力、国際調整能力等、総合的な知識・能力を持った感染症危機管理の専門家を継続的 に育成する。【厚生労働省】

○ 感染症の流行・集団発生時に迅速・的確にその実態把握及び原因究明に当たり、 かつ平常時には質の高い感染症サーベイランス体制の維持・改善に貢献できる実地疫学専門家を国立感染症研究所の実地疫学専門家養成コース(FETP-J)におい て継続的に育成する。【厚生労働省】

4.国内における感染症防止対策及び在外邦人の安全対策の強化

(1) 国内の感染症情報の国民への情報提供の推進

○ 国内の感染症情報について、一類感染症等の感染が確認された場合の対応を含 め、メディアやソーシャルネットワーキングサービスを活用するなど、情報提供 のツールを多様化させるとともに、メールマガジンの対象拡大を行う等により、 多様なライフスタイルの国民に対応した効果的な提供を推進する。【厚生労働省】

(2) 検疫所等関係機関の対処能力の向上及び国内で感染(疑いを含む)が確認され た場合の対応の確保

○ 「感染症国内対処能力強化プロジェクト」における「国内関係機関の体制等の 強化」に加え、以下により関係機関の対処能力の向上等を図る。

  1. 検疫所において、関係機関と連携したエボラ出血熱患者の搬送訓練等の感染 症措置訓練、検査に関する最新の知見・検査技術を習得する検査技術研修等を 毎年度実施する。【厚生労働省】
  2. 国立感染症研究所において、エボラ出血熱及び中東呼吸器症候群(MERS)の 国内症例が複数の自治体で発生した場合等に備え、実地疫学専門家養成コース(FETP-J)を活用し、積極的疫学調査(接触者調査を含む)が適切に実施でき るようにする。【厚生労働省】
  3. 地方自治体及び感染症指定医療機関等において、関係機関間で連携したエボ ラ出血熱等の患者の搬送訓練等感染症発生時等の対応訓練及び研修会等を継 続的に実施する。【厚生労働省】
  4. 警察において、関係機関が一体となって行う対策や訓練に積極的に参画する ほか、感染防護資機材の着脱訓練をはじめとする各種訓練や必要な装備資機材 の点検・整備等を継続的に行う。【警察庁】
  5. 消防庁において、各消防機関に対し、全ての傷病者に対して標準感染予防策 を徹底するとともに、感染症が疑われる傷病者に接した場合の消防機関におけ る基本的対応について、周知徹底する。また、感染症患者の移送について、保 健所等の体制が十分に整っていない地域における消防機関と保健所等との連 携体制の構築に向けた取組を促進する。【消防庁】
  6. 国土交通省において、検疫所等が実施する訓練等に参加するとともに、エボ ラ出血熱の疑い事案も含め国際的に脅威となる感染症が発生した場合には、国 民に対する情報提供、検体及び患者の搬送時の所管関係事業者との調整等、必 要な協力を行うなど、感染症の発生状況に応じて適切に対応する。【国土交通 省】
  7. 環境省において、医療機関等から排出される感染性廃棄物の処理マニュアル について、関係団体等と連携して見直しに向けた調査・検討を行うとともに、 同マニュアルに基づく感染性廃棄物の処理の徹底を図る。また、現状で把握さ れている課題等を踏まえた同マニュアルの改訂を平成 28 年度に行う。【環境省】
(3) ウイルス性出血熱に対する行政機関等における対応指針の整備

○「ウイルス性出血熱の行政対応の手引き」51等を作成し、医療関係団体等の協 力も得て、行政機関(検疫所、地方自治体・保健所・地方衛生研究所)等における より迅速で適切な対応を促す。【厚生労働省】

(4) 在外邦人に対する海外で発生している感染症に関する適時適切な情報提供及 び注意喚起の徹底

○外務省において、海外で発生している感染症に関し、当該感染症の発生状況に 応じて海外安全ホームページで危険・広域・スポット情報を発出し、在外邦人へ の適時適切な情報提供・注意喚起を行う。【外務省】

○在外公館において、管轄域内で発生している感染症に関し、当局及び関係機関 等から情報収集を行い、速やかに本省に報告するとともに、ホームページや領事 メール等を通じて在留邦人への適時適切な情報提供・注意喚起を行う。【外務省】

○外務省及び厚生労働省は在外公館を通じて入手した情報と IHR の枠組みによ り入手した情報を相互に緊密に共有・連携し、それぞれ在外邦人の安全対策及び 国内における感染症防止対策に活用する。【外務省、厚生労働省】

(5) 在外邦人感染時の緊急搬送等在外邦人の安全確保のための対策の強化

○在外邦人が万一感染した場合に、現地での治療、第三国又は我が国への緊急搬 送等の対応に関し、医師の判断や本人・家族の要望等を総合的に勘案して在外邦 人が最善の治療を受けられるように、関係省庁の協力の下、在外公館における支 援体制を整備する。【内閣官房、外務省、厚生労働省】

○医師の判断や本人・家族の要望等を総合的に勘案した結果、第三国または我が 国への緊急搬送を行うことが最善と判断された場合、民間の関連企業や他国の迅 速な協力・支援が得られるように、在外公館を通じて平素より、感染症に対応可能な民間航空会社・危機管理会社や各国の感染症対応に関する情報収集を行い、 協力関係の構築に努める。また、チャーター機や他の代替手段がない場合の自衛 隊輸送機の活用の検討を含め、あらゆる手段を講じて在外邦人の安全を確保する ため、関係省庁の連携及び対応手順等の整備を含めた対策を強化する。【内閣官 房、外務省、厚生労働省、防衛省】


51「ウイルス性出血熱への行政対応の手引き」とは、国際的に脅威となる感染症が発生する可能性を見据え て、これらの感染症の発生予防及びまん延防止のための対策を強化するための行政対応の手引き。エボラ 出血熱をはじめとするウイルス性出血熱(クリミア・コンゴ出血熱、南米出血熱、ラッサ熱、マールブル グ熱及びエボラ出血熱)について、行政の対応体制や患者の移送、検体の採取と輸送、医療体制(医療機 関における治療指針)、積極的疫学調査、消毒方法、広報・情報提供の実施手順等を記載している。

X.本基本計画に基づく施策の推進について

  本基本計画に基づく施策について、推進チームにおいて、毎年度、進捗状況のフ ォローアップを行い、必要に応じて閣僚会議に報告するとともに、その結果を踏ま えて基本計画の改定等必要な措置を講ずることとする。

以上