海上保安学校卒業式 内閣総理大臣祝辞

更新日:令和7年9月27日 総理の演説・記者会見など

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 海上保安学校の卒業式に当たり、晴れの門出を迎える卒業生の諸君に、心よりお祝いを申し上げます。
 古来より、我が国は、海から多くの恩恵を受けてきました。
 しかし、先の大戦により、海には機雷や沈船(ちんせん)が残され、多くの灯台が倒壊し、海賊行為も横行するなど、『恵みの海』は『暗黒の海』と化しました。その海に明かりを灯(とも)すがごとく、昭和23年5月、海上の安全及び治安の確保を担う海上保安庁が創設されました。先ほど学校長の話があったとおりであります。
 70年以上の歳月を経た今、海上保安庁の活動は広大な海域に及んでおります。国境を越えた海上犯罪の多発、海洋権益をめぐる対立の顕在化など、海を舞台とする課題が世界に広がる中、海上保安庁の役割はますます重要になっております。その一員として旅立つ皆様に対し、激励の言葉を贈りたいと思います。
 海上保安官は、一たび事故が発生すれば、直ちに人命救助に向かうこととなります。
 昨年10月の深夜、島根県の美保関で漁船が座礁しました。強い波風と漆黒の闇の中、潜水士たちは、学校で学んだ『もやい結び』から現場で磨いたロープレスキュー技術まで、あらゆる技能を駆使して、9名全ての乗組員を救助しました。
 この困難を乗り越えた救出は、日々の研鑽(けんさん)の成果にほかなりません。いついかなる事案が発生しても任務を全うできるよう、自らを高めるひたむきな努力を継続してください。
 激甚化する災害への対応にも、大きな期待が寄せられております。
 昨年の能登半島地震では、陸路が寸断する中、海上保安庁は、海から救助部隊や物資の搬送、給水支援等を行うとともに、港の被害状況を確認し、海上輸送の早期再開にも貢献しました。練習船『みうら』も、実習生を乗せ、被災者支援に当たりました。
 世界有数の災害発生国であればこそ、『人命・人権最優先、世界一の防災大国』を実現しなければなりません。『最も厳しい環境にある被災者に、最も温かい手を差し伸べる。』その思いを常に抱きながら、何をなすべきか自ら考え、行動に移してください。
 領土・領海の保全についても、海上保安庁が大きな役割を担っております。
 尖閣諸島の周辺海域では、連日、中国の海警船が確認され、(一分の隙)も許されない現場において、高い使命感と緊張感を持ち、冷静に、毅然(きぜん)と対応しています。『国民を守る。領土・領海を守り抜く。』その強い決意が、ひるまぬ職務執行を支えています。内閣総理大臣として敬意を表するとともに、皆様が、先輩方と共に、国益を守るために尽力されることを期待しております。
 美しく平和な海は、交易や交流の場として、世界に豊かな恵みをもたらしてきました。この恩恵を享受し続けるためには、法の支配に基づく自由で開かれた海洋秩序を実現することが不可欠であります。
 私は、4月にフィリピンを訪れ、沿岸警備隊に技術指導を行う海上保安官の活動をこの目で見てまいりました。力による現状変更に直面するフィリピンの職員に対し、真剣に指導を行う先輩方の姿は、我が国が提唱する『自由で開かれたインド太平洋』というビジョンの体現そのものであります。
 海上保安庁の国際貢献は質・量ともに高まっております。皆様には、法の支配の普及・定着のために世界を牽引(けんいん)していく気概と実力を持ち続けていただきたいと思います。
 政府におきましては、厳しさを増す周辺海域の情勢を踏まえ、海上保安能力の強化に取り組んでおります。最新鋭の大型巡視船や無操縦者航空機の整備、自衛隊や警察との連携強化などにより、領海警備に万全を期するとともに、定員の増員及び教育訓練の充実化も計画的に進めております。
 領海警備をめぐっては、海上保安庁の任務・権限の在り方や、巡視船に搭載すべき装備などについて様々な議論がありますが、現下の国際情勢を冷徹に分析しながら、海上保安官がその職責を全うできる環境の整備を、着実に進めてまいります。
 卒業生諸君。これから臨む最前線の現場では、大きな試練に出逢(あ)うことになります。
 その時は、同じ志の下、共に心身を鍛え上げた仲間たちを思い出してください。今、目の前にいる、逞(たくま)しく凛々(りり)しい仲間たちのことを。互いに助け合い、高め合いながら難局を乗り越え、自らの使命を果たしてください。
 左後ろを御覧ください。そこには御家族の慈愛と激励に満ちた眼差しがあります。ここまで支えてくださった御家族、そして将来できる家族を、大切にしてください。かけがえのない家族に感謝し、互いに支え合うことで、長きにわたる海上保安官人生が豊かで実りあるものになるはずであります。加えまして、この舞鶴の地におきまして、この学校を支えていただきました、地元の皆様方にも心より厚く御礼を申し上げる次第であります。
 現場に立つ準備は整いました。皆様の活躍を期待します。
 御家族各位に申し上げます。この喜ばしき日を迎えられたことにつき、心よりお祝いを申し上げます。海上保安官を志すこの若人たちを、温かく見守り、支えてくださったことに対し、政府を代表して深く感謝申し上げます。
 職員一人一人の声に耳を傾け、御本人にも御家族にも、『この道を選んで本当に良かった』と感じていただける、そのような職場環境を構築していくことを、改めて申し述べます。
 平素から海上保安学校に御厚情を賜っております御来賓の皆様方に心より感謝を申し上げますとともに、学生の教育に尽力されてきた松浦あずさ学校長を始め、教職員の皆様に敬意を表します。海上保安庁が引き続き国民の期待と信頼に応えていくことを祈念申し上げ、祝辞といたします。
 1999年、平成11年のことですから、皆さん方はまだ生まれる前の話です。私は当時、衆議院当選4回、衆議院にあった運輸委員会の委員長をいたしておりました。3月であったと記憶をいたしますが、そのときに能登半島(沖)不審船事案というものが発生をいたしました。おそらく学校でその概要については、習ったかと思っております。
 今、『おきなわ』っていう船になりましたが、『ちくぜん』というPL(大型巡視船)がありました。工作船は速かったので、巡視船は燃料切れということになりました。史上初めて海上警備行動が発令をされた。海上保安庁の能力を超える場合は海上自衛隊に海上警備行動が発令される。初めての事例でありました。結局、不審船は逃走しました。これはいったいどういうことであったのかという議論が随分と国会で、あるいは自民党の中でいたしました。
 領海を守るのは海上保安庁の仕事であるということであるならば、それは、海上保安庁法は本当に今のままでいいのかという議論、あるいは警察官職務執行法第7条からしても、それをどのように考えるべきなのか、危害射撃はどのように行われるべきなのか、いかにして抑止機能を果たすべきなのか、そういう議論はなお続いております。
 いろんな法整備もいたしてまいりました。本日は西脇海将を始め、海上自衛隊の幹部も出席をいたしております。私は海保と海自の連携、いかにあるべきかと、我が国の国家主権はいかにして守るべきか、その議論をなすのは政治の責任であると、このように固く信じるものであります。諸君が任務を全うされ、我が国の独立、そして主権、国民の生命、財産、そして公の秩序、それが保たれるために、政府として皆さん方のいろんな努力に報いるために、御家族のお支えに応えるために、今後とも全力を尽くしてまいります。
 諸官の前途は揚々たるものであり、その努力によって我が国の平安が保たれ、そして世界の平和が保たれること、決して容易なことではありませんが、全ての者が力をあわせて頑張ってまいりたいと信じるものであります。ますますの御活躍、御発展、精強ならんことを、心より祈念して私の祝辞といたします。以上であります。

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