海上自衛隊横須賀基地における内閣総理大臣訓示

更新日:令和7年8月23日 総理の演説・記者会見など

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 本日ここに、ここ横須賀の基地において士気旺盛な隊員諸官の姿に接し、内閣総理大臣として大変心強く思います。
 今から23年前の2002年、私は防衛庁長官として横須賀を訪れ、潜水艦「おやしお」の視察をいたしました。12年前の2013年には、横浜において本艦の同型艦「いずも」の命名・進水式に出席をいたしました。
 今、自衛隊の最高指揮官として再び横須賀を訪れ、改修により進化を遂げた「かが」の現状をこの目で確認をし、乗員諸官の声を拝聴する機会を得たものであります。関係する諸官の対応に心より感謝を申し上げます。
 現在、我が国は戦後最も厳しく複雑な安全保障環境に直面しております。中国は東シナ海・南シナ海での力による一方的な現状変更の試みを強化するとともに、我が国周辺での軍事活動を拡大・活発化させております。本年6月には、2隻の中国空母が太平洋の我が国近海で同時に活動を行いました。北朝鮮は核・ミサイル能力の向上を引き続き追求し、ロシアによるウクライナ侵略はいまだ継続をいたしております。そのロシアに北朝鮮は兵士を派遣し、その見返りにロシアから核・ミサイル関連技術が移転される、このような懸念を抱いておるところであります。中国はロシアとの軍事的連携を強化しております。我が国の主要なエネルギー供給源である中東におきましては、イスラエルとイランによる緊張状態が継続しており、そのイランはロシアに無人機を供与しておるのは諸官も御案内のとおりです。
 このように、欧州、中央、東アジアの安全保障環境は互いに密接に連関し、欧州、中東の出来事が自分たちの安全や暮らしに影響を与える世界に我々は生きております。この中で我が国の独立、平和を守り抜く、これが我々の役割であり、この役割を果たすため抑止力強化の取組を一層果敢に進めていかねばならないのであります。
 本艦も抑止力向上のため能力強化を進めてまいりました。今後、戦闘機F-35Bの運用能力を獲得をするということでありますが、これは広大な空域を有する一方で飛行場が少ない太平洋側を始め、我が国の海と空の防衛態勢の強化に寄与するものであります。
 我が国は、国家安全保障戦略等に基づき、防衛力の抜本的強化に取り組んでまいりましたが、この取組は今後も継続していかねばなりません。その上で、我が国を取り巻く安全保障環境を踏まえ、我が国として主体的に抑止力・対処力を強化するための取組を不断に検討し、進めていくことも同時に必要であります。
 日本国の独立、国民の生命、財産、平和な暮らし、これを守るために何をなすべきか。海上自衛隊が、我が国が何をなすべきか。諸官と共に我々は政治の責任において考えてまいらなければなりません。
 今後、本艦を運用していく上で統合運用能力を抜本的に強化することは必須の課題であります。海上自衛隊の護衛艦で航空自衛隊の戦闘機を運用することは自衛隊にとって初めての取組であり、また、本艦の優れた輸送機能をいかし、離島防衛を行う水陸機動団やV-22オスプレイなどの、陸上自衛隊の部隊に各種支援を行うことも重要な役割であります。
 私は、これはもう随分昔のことになります。中谷長官から防衛庁長官を引き継ぎましたが、そのときからうんと話をしてまいりました。運用が統合ならば、防衛力整備も統合でなければなりません。本艦が統合運用の強化に向け取り組むに際しては、困難が様々あることはよく承知をいたしております。その克服に向け何が必要か。現場で任務に当たる諸官の要望が統合運用強化の原動力となり、要望を踏まえた取組が我が国の抑止力向上の取組となります。自らの任務遂行に必要なことを諸官一人一人が考え、組織として実行することを要望いたします。
 装備にしてもそうですし、運用にしてもそうですし、法律にしてもそうですし、それが本当にこれでよいのか。完全に、改善をする要はないのかということ。私はそれなりに安全保障について、防衛についてある程度の勉強はしてまいりましたが、命を懸けて船に乗ったことはない、命を懸けて飛行機に乗ったこともない、命を懸けて車両に乗ったこともない。一番知っているのは自衛官諸官であります。運用がどうであり、法律がどうであり、装備がどうであるかということを意見をすることは、それは諸官の権利であり、義務であります。私どもは国民に対して責任を負うという立場からそれを判断をいたします。より良い防衛力の向上に向けて諸官の一層の研さんを心より乞い願うゆえんであります。
 先ほどは「プリンス・オブ・ウェールズ」を視察をいたしました。2回目の英国空母打撃群の寄港は地域の平和と安定に貢献するとの英国のコミットメントを示すとともに、我が国の安全保障、日英安保、防衛協力の一層の強化に貢献するものであります。
 欧州と東アジアの安全保障環境が密接に関連している状況において、欧州を始めとする同志国と我が国の連携強化が重要であることは論を俟(ま)ちません。本艦も各国との連携強化に大きく寄与をいたしてまいりました。2月には、米国、フランス両国の空母と共に海軍との共同訓練。今月は「プリンス・オブ・ウェールズ」を含む英国海軍及び空軍、米国海軍、海兵隊、オーストラリア、スペイン、ノルウェーの各国海軍との共同訓練に参加しました。
 東アジアで、欧州で、力による一方的な現状変更の試みが行われ、我が国と同盟国・同志国はこれに直面をいたしております。その中で、これに対抗する我が国と各国が連携して、強い意思と能力を示すことは、抑止力向上に大きく寄与するものであり、本艦がその特性を十分にいかし、連携を実効性あるものとしていくことを心より期待をいたします。
 自衛隊とは最高の栄誉が与えられなければなりません。国家の独立を守る組織であります。そうであるだけに、最高の栄誉が与えられてしかるべきものであります。そうであれば、同時に最高の栄誉に対応する最高の規律が求められなければなりません。本艦を含め、いかに優れた装備を持とうとも、これを運用する隊員諸官がいなければ用をなしません。
 国防の最前線に立ち、全身全霊をかけて任務を遂行する諸官の努力が我が国の抑止力であり、国民の命と平和な暮らしを守るそのものであります。国家の独立を守る力そのものであります。諸官がかくも、枢要な任務に誇りと名誉を持って専念できるよう万全の体制を構築することは、政府として、国家として当然の責務であります。
 そのような考えの下、私は、政府を挙げて自衛官の生活・勤務環境や処遇の改善に取り組んでまいりました。中谷防衛大臣の下で、30を超える手当の新設、金額の引上げなど、過去に例のない政策が実現をしております。人材確保にも効果が現れ始めております。
 しかしながら、この取組は始まったばかりであり、本年5月に舞鶴を訪問しました際、現場の諸官と車座対話を行い、処遇改善について意見を聴きました。幹部自衛官のみならず、曹士クラスの隊員からも、男性からも女性からも、20代の若手からも50代のベテランからも、一人一人の諸官から話を聞き、様々な要望を聞いたところであります。私からは、要望につきできるものは必ず実現する、できないものはなぜできないか、その説明はきちんと申し上げると、そのように答えたところであります。自衛官諸官の声に耳を傾け、更なる施策を検討し、実施をいたしてまいります。
 今年は戦後80年、節目の年であります。戦後の我が国の平和国家としての歩みの傍らには常に自衛隊の存在がありました。その中核は自衛官諸官であり、抑止力の中核は自衛官諸官の精強性であります。「事に臨んでは危険を顧みず、身をもって責務の完遂に務め、もって国民の負託にこたえる」、この宣誓の重みを我々は片時たりとも忘れることはありません。同時に、服務の宣誓を胸に職務を忠実に遂行する諸官に対し、国家としてふさわしい対応を実現をいたします。
 国民の負託にこたえ、国民の最後のよりどころとして我が国の国防に従事する崇高な使命の自覚、不断の努力を諸官に求めるとともに、私自身、先頭に立って日本国の独立、日本国民を守り抜く覚悟であります。
 私が最初に護衛艦に乗ったのは昭和43年、1968年のことです。私は鳥取の小学校6年生でした。DD-113という船に乗りました。ほとんどの人は知らないと思うけれども、雲クラスの1番艦という船でした。境港から舞鶴まで体験航海をして、その夜は舞鶴病院に泊まりました。あのときの感激を私は一生忘れることはありません。いい船でした。「たかつき」というのもいい船でした。「あまつかぜ」というのもいい船でした。若い隊員の方は、何ですか、その船みたいな話になりますが。
 やはり我が国は海洋国家であります。海上自衛隊がより精強であり、そして、諸官の努力の上に日本国の独立と平和、これが保たれます。我々政治としても能(あた)う限りの努力をいたしてまいります。
 諸官の努力により、海上自衛隊が精強ならんこと、そして、この「かが」が精強ならんこと、いつまでも日本国が平和であり、独立を保たれることを心より祈念して、私の訓示といたします。よろしくお願いします。御苦労様です。

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