TICAD9開会式 石破総理基調演説
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日本国内閣総理大臣、石破茂であります。アフリカ連合(AU)議長のロウレンソ・アンゴラ共和国大統領閣下、アフリカ各国を代表して、お越しの首脳・閣僚の皆様、御列席の皆様、6年ぶりの日本開催となります、第9回のTICAD(アフリカ開発会議)であります。私はホスト国として皆様を歓迎できますことを大変光栄に存じます。
このTICADは、アフリカのオーナーシップと国際社会とのパートナーシップを基本理念としてまいりました。日本がアフリカの未来を信じ、このプロセスを開始をいたしましたのは、1993年のことであります。1993年といえばコールド・ウォー、冷戦が終わってまだ間もない時期でございました。
日本とアフリカとの歴史を振り返りますと、古くは16世紀、天正遣欧使節団と言いますが、そこまで遡ります。日本には当時キリスト教を信じる大名がおったのでありますが、キリスト教を信じる大名たちの名代として、4人の少年がはるばるローマに派遣をされました。ローマからの帰りにモザンビークにも立ち寄ったと、このように言われておるところであります。1927年、大恐慌の2年前でございますが、1929年にガーナに渡って黄熱病の研究に取り組んだ野口英世博士、この野口英世博士もアフリカの課題解決に取り組む日本人のロールモデルでありました。
私自身、アフリカとの関わりは、もう今から25年前になりますが、西暦2000年にセネガルを訪問したときに遡ります。当時、私は農林水産副大臣を務めておりました。WTO(世界貿易機関)が発足したのが、1995年でありまして、日本の農産品市場への開放圧力と、これが高まる中にあって、WTOにおいて日本と共同歩調を取ってくれる国はないものかと、日本と連携してくれる国はないものかということで、世界中あちらこちら参りましたが、その中でセネガルを訪問したのであります。今から25年前のことであります。私はそのときにセネガルの農業大臣にこのように申し上げました。日本は食料自給率が低いのであると、セネガルも自給率が低いのであると、共にWTOで連携しようではないかと、このように私は申し上げたのでありますが、セネガルの農業大臣はWTOで日本と協力はできないというふうにはっきりおっしゃいました。彼はこのように言ったのであります。日本も自給率は低い、セネガルも低い、自給率が低いという意味では一緒なのだが、なぜ自給率が低いのかと、その理由は日本とセネガルは全く違うのであると。日本は経済的に豊かであると、だから、世界中からいろんな食料を買うのであると。したがって、自給率が低いのであると。しかし、セネガルにはお金がない。したがって、いろいろな灌漑(かんがい)などの技術、あるいは品種改良、そういうものがしたくてもできないのだと。だから、世界中から食料を買わなければいけないのだと。自給率が低い理由が全く違う、日本とセネガルはWTOにおいては協力できない、こういうお話でありました。私は非常に自分の発言を恥ずかしく思ったことであります。我々は相手のことを知り、そして相手の国と共に考え、そして共に解決策を創るということが重要であります。アフリカの発展のためには、アフリカに根差した解決策が重要であります。日本がアフリカにいろいろな協力をする、支援をするためには、まず日本がアフリカのことをよく知らなければならないと、そのように思った強烈な体験でありました。
今回のTICAD9のテーマ、私はこれがTICAD9のテーマだと思っております。つまり、課題解決策を共に創る、共創と言います、課題解決策を共に創るに当たって、今回のTICAD9では、民間セクターの持続的な成長、若者であり、女性であり、地域統合及び域内外の連結性という、この3つの重要分野に焦点を当てたいと、このように考えておるところでございます。
まず、民間セクター主導の持続的な成長について申し上げます。官と民が連携をして民間主導の投資、これを強化をいたしてまいります。AI(人工知能)であり、DX(デジタル・トランスフォーメーション)であり、GX(グリーン・トランスフォーメーション)であり、そして衛星データの活用であり、日本企業の技術や知見を活用して課題解決策を共に創り上げてまいりたいと考えております。
例えば、デジタル技術を使って精密な信用分析を行って、今まで金融サービスにアクセスすることが難しかった、例えばタクシーのドライバーさん、こういう方にローンの機会を提供する。そういうことができると思います。真面目に働いているドライバーの方は、ローンを活用して中古車を買って、そして借金を返済をすると。デジタル技術によって、例えばドライバーさんの誠実な努力が報われる。そのような社会を構築するために、日本は一緒に取り組んでまいりたいと思います。
問題の解決は一方通行では決して解決はしません。私は日本の課題を解決するためにも、アフリカの力を貸していただきたいと思っています。日本にも様々な課題があります。どんどんと日本は人口が減っていきます。あと75年ぐらいたつと日本人は半分になると言われています。人口がどんどん減っていく、この横浜は首都東京の隣ですが、東京にはどんどんと人が集まる。しかし、地方はどんどんと人口が減っていく。それも日本が抱えている大きな課題であります。あるいは、農地がどんどん減っていくというのも、日本の大きな課題であります。日本には多くの課題があって、それを解決するために、我々はアフリカの知恵や力をお借りしたいと思っています。
日本の西に九州という地域があります。その九州に長崎という地域があります。そこに五島列島という多くの離島から成っている地域があります。非常に人口が減っている地域、なかなか交通アクセスが十分には機能していない、交通アクセスが不便な地域であります。五島と申します。そこにおいて、薬を運ぶ、医薬品を運ぶ、それをドローンが運んでおります。大勢の人が助かっています。そのドローンを実験したのは、どこなのかと。この日本の交通が不便な地域で薬をドローンが運ぶ。その実証実験はルワンダで行いました。ルワンダの方々に協力していただいたから、日本における地方の問題、こどもが少なく、そして人口が減って、どんどんと寂れていく。そのような課題の解決のヒントを見いだすことができました。
このように、アフリカにおきましてはスタートアップを通じた新しいサービス、新しいビジネスが勢いを増しています。このスタートアップのビジネス、これが世界で一番できるのは、一番可能なのはアフリカであると私は考えています。若い人たちがアフリカにおいては増えていきます。しかし、その人たちの持っている力、これを発揮するためには、私は雇用を創る産業、製造業、これを育てていくことが大事であると思っております。アフリカにおいては、第一次産業の農業、漁業、林業から、一気に第三次産業、サービス業に産業の中心が移っていく地域もあります。しかし、私たち日本がそうであったように、あるいは日本が支援をしてきたアジア各国がそうであったように、農業、漁業、林業から製造業へと、まずそのような産業構成の移行が重要であると私は考えております。なぜならば、製造業は多くの人たちを雇用し、多くの若い人たちの力を十分に発揮できる。それが製造業だからだと、私は思います。
アフリカの製造業の生産性を向上させるために、日本はチュニジアにおきまして、これはアフリカでも伝わっている言葉かもしれません、トヨタ自動車の言葉でありますが、カイゼン、この考え方の研修を始めとして、今やアフリカの41か国にこれを普及をさせています。このカイゼンのトレーナーは1,400人に達しました。そして、28万人の雇用を生み、1万8,000の会社の生産性を高めるために多くの役割を果たしています。このカイゼンにより、会社の生産性は6割以上向上したと、このように報告をされています。このような取組に加え、日本・アフリカの間で産業エコシステムを育て、これを大きくしていきたいと思っています。アフリカのスタートアップと、日本の企業が共に産業を興していく。「日本アフリカ産業共創イニシアティブ」、これを進めてまいります。
金融面におきましては、日本とアフリカ開発銀行の協調枠組みである「アフリカの民間セクター開発のための共同イニシアティブ」の機能を強化し、最大55億ドルにこれを拡充します。JICA(国際協力機構)の海外投融資を触媒とした官民総額15億ドル規模のインパクト投資を動員いたします。貿易保険を最大限に活用してビジネスリスク、これを低減させてまいります。債務問題への対処は、持続的な成長に不可欠のものであります。債務措置に係る共通枠組みの実施改善、債務透明性の向上に向けて、我が日本国は引き続き主導的な役割を果たしてまいります。
若い方々と女性について申し上げます。先ほど25年前にセネガルを訪問したお話をいたしました。もちろん、首都ダカールでいろんな会議がありました。ただ、会議と会議の合間に少しだけ時間がありました。せっかくセネガルに来たのだから、アフリカ大陸の一番西にあるマメル灯台というものに行ってみたいと私は思いました。マメル灯台に行ってみようということで、大使やあるいは随行の農林水産省の職員と共に、私はよく晴れた日でした、マメル灯台に行きました。そうするとセネガルの女子高校生がマメル灯台に研修旅行に来ておりました。おそらく15歳、16歳、そういうようなセネガルの元気いっぱいの女子高校生と私は出会いました。セネガルにいる日本大使がこういうことを言いました。セネガルの女子高校生の皆さん、ここにいるのは、日本から来た農業副大臣ですと。ここでタウンミーティングやりませんかと。そこで即席のというか、臨時のというか、日本の農林水産副大臣である私とセネガルの20人ぐらいだったと思いますが、女子高校生の皆さん方のディスカッションが始まりました。私はセネガルの女子高生の皆さん方に、皆さん、将来は何になりたいですかというふうに聞きました。全員が手を挙げました。私はお医者さんになりたい。私は学校の先生になりたい。私は外交官になりたい。私は学者になりたいと、口々に若いセネガルの女性が将来の夢を語りました。政治家になりたいという人は一人もいませんでした。いてもいいのにね。一人もいなかったですよ。私はそのときに非常に強い衝撃を受けました。もう今から25年も前のことですが、日本の若い人たちに、将来何になりたいですかと聞いたときに、みんなが目を輝かせてあれをやりたい、これをやりたい、そういう夢を語る人はセネガルほど多くなかったと思います。何になりたいですか。何になって、国のために働きたいですか。何のために世界のために働きたいですか。全員の若い女性が手を挙げた。その姿に私は強い感銘を受けました。こういう人たちがセネガルの、そしてアフリカの輝かしい未来をつくるに違いないと、そのときにそう思いましたし、今そのときに思ったことは、こうして現実のものとなっています。
アフリカの人口の年齢の中央値は19歳です。アフリカには若い人たちの活力があふれています。アフリカが次の成長センターとなるための鍵は若い人たち、そして女性の方々、この能力を最大限に伸ばしていくこと、そしてそのような人たちの雇用の確保を進めること。これが大事だと私は思っています。
このような認識の下で、今後3年間で私たちはアフリカに30万人の人材育成を実施をいたします。東北大学という大学があります。東北大学で研さんをし、TIMEという雑誌がありますが、TIME誌のAI領域で最も影響力のある100人に選ばれたペロノミさんという方がいらっしゃいます。そういう方のような優れた人材の育成を、私たちは後押しをいたします。AI・データサイエンスの人材育成、そしてアフリカの経済成長イニシアティブを通じて、アフリカのAIに関する産業人材を3年で3万人育成をいたします。
日本は、「アフリカ保健投資促進パッケージ」に基づいて、アフリカの保健分野への投資を呼び込んでまいります。今年、日本に設立するユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)ナレッジハブや3万5,000人の保健医療人材の育成は、アフリカ各国のUHCの実現に必ず貢献をいたします。Gaviワクチンアライアンスへの今後5年間で最大5.5億ドルの貢献をいたしますが、これを含めてアフリカにおけるワクチン供給を支えてまいります。
人作りの一番重要な基盤となります教育分野、この教育分野において、1,000万人のお子さんの学びを改善し、15万人の高度な人材の育成を行ってまいります。
3つ目、地域統合と域内外の連結性についてであります。アフリカ各国の一層の成長のためには、産業力強化に加え、国境を越えた地域統合、連結性の強化、これが必要であります。アフリカの地域統合を強化するため、アフリカ大陸自由貿易圏の実施促進を後押しをいたします。日本・アフリカの産学官の代表から成っています、日本アフリカ間の経済連携強化に関する検討委員会を設置をいたします。
日本はこれまで白金の多くをアフリカから輸入してまいりました。今後もハイブリッド自動車や電気自動車に活用される銅、コバルトなどを含め、アフリカの豊富な資源が安定して供給されますよう「RISE(ライズ)」パートナーシップの協力を拡大をいたしてまいります。鉱物資源の供給強化にもつながるナカラ回廊の物流を促進をし、地域の産業振興を併せて進める広域オファー型協力を新たに立ち上げます。アフリカとアフリカ域外との開かれた連結性強化も重要であります。アフリカとインド洋地域の貿易・投資の活性化、アフリカの域内統合・産業発展に資する「インド洋・アフリカ経済圏イニシアティブ」を立ち上げます。
平和と安定、経済成長、包摂的な社会、これらは相互に結び付いています。我が日本は、アフリカにおける平和、成長、安定のこの良い循環を実現するために、ソマリア支援安定化ミッションへの拠出、「アフリカ地雷対策プラットフォーム」、女性・平和・安全保障(WPS)の推進などを通じてアフリカと共に取り組んでまいります。
アフリカは今や責任あるプレーヤーとして、世界秩序の形成に力強く参画をしています。国際社会において、アフリカ諸国の声が一層反映されるように責任あるグローバル・ガバナンスの構築に、我が日本国はアフリカと共に取り組んでまいります。アジェンダ2063の目標にも含まれる法の支配、グッド・ガバナンスの強化に向け、アフリカ諸国と協力してまいります。我が国は人間の安全保障の理念に基づき、SDGs(持続可能な開発目標)達成に向けた取組を進めてまいります。
本日は、グテーレス国連事務総長も御臨席でありますが、本年は国連創立80周年となります。80周年の本年、我が日本国は国連安全保障理事会改革の具体的な進展に向けてアフリカ諸国と共に行動をいたしてまいります。TICAD6で提唱した法の支配に基づく「自由で開かれたインド太平洋」の推進でも、アフリカと更に密接に協力をしてまいりたいと考えています。
これからは、アフリカ発のソリューションが日本を含む国際社会を救う、そのような時代になります。日本はアフリカと共に歩み、解決策を提供し合う信頼できるパートナーであり続けたいと願っています。有言実行、口先で言うだけではない。口で言った言葉を必ず実行する。その証として、今回、このTICAD9において300件以上の協力文書が結ばれます。そのことを皆様方にお伝えをいたします。日本はアフリカの未来を信じ、アフリカへの投資を推進します。我が日本国は世界中全ての国と共に、共に笑い、共に泣き、共に汗を流したいと思います。我々日本人は、かつてアジアでそうであったように、アフリカにおいて、アフリカの皆様方、共に笑い、共に泣き、共に汗を流したい、このように思っております。
野口英世という人がいました。冒頭で御紹介した中南米やガーナで黄熱病の研究に取り組んだ人、野口英世という医学者であります。この人がこういう言葉を残しています。「私は皆さんのところに何かを教えに来たのではありません。皆様方から何かを学びに来たのです。」、「日本から皆さん方に何かを教えに来たのではありません。皆様方から何かを学びに来たのです。」と、そのような言葉を残しています。野口英世は現場主義を貫き、アフリカから学び、ガーナの現場で課題解決に取り組んでまいりました。100年前のことです。でも、この言葉は今も生きています。我々日本は100年前から課題を解決するために、その思いで取り組んでまいりました。21世紀の今、日本とここにお集まりのアフリカのリーダーの皆様方が一つになって、革新的な課題解決策を共に創り、アフリカと世界が直面する課題に立ち向かっていきたいと、このように考えています。アフリカの人々のために、アフリカの未来のために、そして将来の世界のために、皆様と共にこの会議をすばらしいものにしてまいりたいと考えております。どうぞよろしくお願いいたします。ありがとうございました。